名古屋地方裁判所 昭和47年(ワ)1099号 判決 1975年12月26日
原告
山本広光こと崔広玉
被告
林豊
主文
被告は、原告に対し、金一一五万一、六五三円およびこれに対する昭和四五年四月二七日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。
原告のその余の請求を棄却する。
訴訟費用はこれを一〇分し、その七を原告の負担とし、その三を被告の負担とする。
この判決は、原告勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
被告は、原告に対し、四〇〇万円およびこれに対する昭和四五年四月二七日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。
訴訟費用は被告の負担とする。
仮執行の宣言。
二 請求の趣旨に対する原告の答弁
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
第二請求原因
一 事故の発生
1 日時 昭和四五年四月二六日午前零時頃
2 場所 名古屋市東区車道町三丁目一九番地先交差点付近
3 加害車 訴外林重治運転の小型乗用自動車
4 被害者 加害車に同乗中の原告
5 態様 加害車が民家に衝突
二 責任原因
被告は、加害車の保有者であつた。
三 傷害の部位・程度および後遺症
原告は、頸部挫傷、右手関節、右膝打撲の傷害を負い、病院、接骨医等で通院治療を受けたが、現在なお右手関節に機能障害、頸部に疼痛や違和感、視力減退、歩行障害、精神不安定症状が存する。
四 損害
1 治療費 一〇万一、八六〇円
(一) 陶生病院分 二万六、八六〇円
(二) 安藤鍼、マツサージ分 六万三、〇〇〇円
(三) 柴田鍼、マツサージ分 一万二、〇〇〇円
2 休業損 二四〇万円
(一) 月収 少くとも二〇万円
原告は、本件事故当時左官業のかたわら美術骨董品の修理、復元、売買を営んでいた。
(二) 休業期間 一二か月間
事故後、症状固定日である昭和四六年四月二五日まで
3 将来の逸失利益 二〇九万四、八六四円
(一) 月収 少くとも二〇万円
(二) 労働能力喪失率 二〇パーセント
(三) 労働能力影響期間 症状固定日から五年間
(四) ホフマン式計算法
200,000×12×20/100×4.3643=2,094,864
4 慰藉料 一五〇万円
五 損害の填補
原告は、自賠責保険から次のとおり受領した。
(一) 傷害分 二八万三、七一五円
(二) 後遺症分 五二万円
六 本訴請求
よつて、被告に対し、以上の残損害のうち、とりあえず四〇〇万円およびこれに対する本件不法行為の後である昭和四五年四月二七日から完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。
第三請求原因に対する被告の答弁
一の1ないし4は認めるが、5は争う。
二は認める。
三は不知。
四は不知又は争う。
五は認める。
第四被告の主張
一 好意同乗による減殺
原告は、被告が飲酒したのを承知のうえ、被告の友人が加害車に同乗するについて、これに便乗して乗り込んだものである。
二 損害の填補
本件事故による損害については、原告が自認している分以外に、次のとおり填補されている。
1 自賠責保険から浅井病院分治療費として二一万六、二八五円
2 被告から損害内払いとして八万円
第五被告の主張に対する原告の答弁
一は争う。
二の1は認めるが、2は否認する。
第六証拠〔略〕
理由
一 事故の発生
請求原因一の1ないし4の事実は当事者間に争いがなく、同5の事実は、〔証拠略〕により認められる。
二 責任原因
請求原因二の事実は当事者間に争いがない。従つて被告は、自賠法三条により本件事故による原告の損害を賠償する責任がある。
三 傷害の部位程度および後遺症
〔証拠略〕によれば、次の事実が認められる。
1 傷病名
頸部挫傷、右手関節、右膝打撲傷。
2 治療経過
(一) 市川病院
昭和四五年四月二六日から約一週間通院
(二) 浅井病院
昭和四五年五月四日から昭和四六年四月二五日まで通院(実日数八九日)
(三) 稲垣接骨院
昭和四六年五月一二日から昭和四七年一月一三日まで通院(実日数一〇八日)
(四) 陶生病院
昭和四七年二月四日から同年三月三一日まで通院(実日数四五日)
(五) 安藤鍼、マツサージ
昭和四八年一月一五日から昭和四九年六月一〇日まで通院(実日数月四ないし五日)
(六) 柴田鍼、マツサージ
昭和四九年三月から同年六月まで通院(実日数一二日)
3 後遺症
(一) 握力減退、右手関節の機能障害、右前腕の筋萎縮(自賠責一二級に該当)
(二) 昭和四六年四月二五日 症状固定
四 損害(損害額の計算については円未満を切り捨てる。)
1 治療費 二一万六、二八五円
(一) 浅井病院分 二一万六、二八五円
当事者間に争いがない。
(二) 稲垣接骨院分、陶生病院分、安藤、柴田各鍼、マツサージ分
前記三の2で認定のとおり、原告は稲垣接骨院、陶生病院、安藤、柴田各鍼、マツサージでも通院治療を受けているが、それらは本件傷害の症状固定後になされたものであるから、その治療費を同傷害の治療費として容認することはできない(それらの治療費は後遺症補償の内に包含されるものと考えるべきである。)。
2 休業損 八四万三、七五〇円
(一) 月収 一一万二、五〇〇円
〔証拠略〕によれば、原告は、左官であるとともに、美術骨董品の修理、復元の技能を有し、本件事故当時、破損した陶器類を修理、復元したうえ売買するなどして、かなりの収入を得ていたことが窺えなくもないが、その収入額を算出するに足りる証拠が見当らないので、これを前提として原告の逸失利益を算定することはできない。しかし、原告は、少くとも左官としての収入は得られたものと推認されるので、本件においては左官の一般的収入を基礎として算出するのが相当と考えられるところ、原告本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第一四号証によれば、当時左官の日当は四、五〇〇円であることが認められるので、月に二五日稼働するものと考え、月収は一一万二五〇〇円とするのが相当と認められる。
(二) 休業の期間および程度
前記三の1、2で認定の原告の傷害の部位、程度および職業等によれば、原告は、本件事故日の昭和四五年四月二六日から同年七月二五日までの三か月間は全く就労できず、その後、症状固定日の昭和四六年四月二五日までの九か月間は労働能力を五〇パーセント喪失したものと推認される。
(三) 計算式
<省略>
3 将来の逸失利益 八二万四、八五二円
(一) 月収 一一万二、五〇〇円
前記四の2の(一)で認定のとおり、
(二) 労働能力喪失率 一四パーセント
(三) 労働能力影響期間
前記症状固定日から五年間
以上(二)、(三)については、前記三の3で認定の原告の後遺症の内容、程度、および職業等を考慮。
(四) ホフマン式計算法
112,500×12×14/100×4.3643≒824,852
4 慰藉料 六七万円
(一) 傷害分 二七万円
(二) 後遺症分 四〇万円
本件事故の態様、原告の傷害の部位、程度、後遺症の内容程度その他諸般の事情を考慮。
5 合計 二五五万四、八八七円
五 好意同乗による減殺
〔証拠略〕によれば、原告は、訴外堂領某と争い事があつて一緒に飲み屋へ赴くことになつたが、同訴外人の友人の訴外林重治が通りかかつたことから、訴外堂領の申し出により訴外林運転の加害車に同乗することになり、訴外林も共に飲酒したのち、帰途本件事故に遭遇したことが認められ、以上のような原告が加害車に同乗するに至つた経緯等を考慮すると、同事故による原告の損害の一五パーセントを減ずるのが公平の理念に照らし相当と認められる。そこで原告の前記損害から一五パーセントを減ずると、二一七万一、六五三円となる。
六 損害の填補
1 請求原因五および被告の主張二の1の事実は当事者間に争いがない。
2 そこで、被告の主張二の2について検討するに、原告本人尋問の結果によれば、原告は、訴外林重治の兄から七万円を受領したことはあるが、これは原告が加害車の修理代一五万円を立替払いしていたため、その一部として返還を受けたものであることが認められるので、右七万円の受領をもつて原告の前記損害の填補として認めることはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。
3 そこで、原告の前記損害から請求原因五および被告の主張二の1記載の填補分合計一〇二万円を差し引くと、残損害は一一五万一、六五三円となる。
七 結論
よつて、被告は、原告に対し、一一五万一、六五三円およびこれに対する本件不法行為の後である昭和四五年四月二七日から完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払う義務があり、原告の本訴請求は右の限度で正当であるからこれを認容し、その余の請求は理由がないので棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 熊田士朗)